2015年3月9日月曜日

ソウル競輪体験記

①4年ぶりの訪問

 先日、ソウルの競輪場に行ってきたので、簡単に見聞録を書いておく。

 韓国に競輪場は三か所ある。今回行ったのは、ソウル特別市の隣、光明市にある光明(グァンミョン)speedom。4年前にはじめて韓国に行った時も訪れたので、今回で二回目になる。後の二つは、韓国南部の昌原、釜山にあるが、まだ行ったことがない。

 speedomの最寄駅は、地下鉄7号線グァンミョンサゴリ(光明交差点)駅。前回は、日本に留学していた韓国人の友人Jさんに連れてきてもらった。その時は、この駅からタクシーに乗ったように思う。Jさんはソウル大出身の才媛で、普段からいろいろお世話になっている。彼女の大学時代の先輩が、韓国の国民体育振興公団(競輪や競艇を運営している公的団体)で働いており、その時の勤務地がspeedomだった。日本で言えば、文科省の外郭団体みたいなものだと思う。

 先輩氏は、競輪や競艇が好きなわけでもなんでもなく、ただただ安定した仕事につきたい、という希望でその仕事を選んだのだとか。だから、競輪そのものについてはあまり詳しい話を聞けなかった。場内を見て回り、何レースか見物した。その頃は自分も韓国語の勉強を始めたばかりで、ハングルを見ても、ぼんやりと「音」がわかる程度だったから、出走表や予想紙をわたされてもほとんど何が書いてあるのかわからなかった。きれいな競輪場だなぁ、結構人気があるんだなぁと思ったくらいで、その時は終わったのだった。

 あれから4年経った。

 当時はまだ計画段階だった競輪日韓戦も3回行われ、日本での試合は生で観戦した。韓国語の勉強も細々と続けていて、前よりは大分わかるようになってきた。今なら、雰囲気を見物するだけでなく、レースも理解できるだろう。というわけで、今回韓国に行く機会を利用して、より踏み込んで韓国競輪を楽しんでみようと出かけたのだった。

 最寄駅から、シャトルバスが出ているという日本語での情報もあったが、韓国語のサイトでは時刻表や乗り場の情報を発見できず、とりあえず駅まで行き探して見ることにした。

 駅は、名前の通り大きな交差点の地下にある。地上にでるとかなりの交通量だった。それらしい看板もなく、とりあえず地図で確認していた南の方向に歩いていくことにした。事前の情報では、徒歩でも20分程度でつく感じだった。スーパーがあったり、不動産屋や塾があったり、キリスト教の教会があったり、ちょっと路地を入ると古めのアパートがあり、その向こうにはそれなりに高そうなマンションがあったりという、韓国のどこにでもあるような、普通の下町だった。

 競輪場がある雰囲気はまったくなかった。10分くらい歩いたところで、中学生くらいの男の子に「ケイリンジョ~ワ、ド~コデス~カ?」(たぶんこんな感じにヘタクソに響いているだろう韓国語で)きいてみた。その子は、こっちの顔もあまり見ず、アッチや、みたいに道の先を指さして、プイッと行ってしまった。ちぇ、愛想の悪いガキめ。こういう時、一番愛想よく答えてくれるのは、中年以上の女性だと思う(少ない経験の印象論だが)のだけど、教会から出てきたような、まともな市民たちに、競輪場の場所をきくのがちょっと恥ずかしかったりして、若い子に聞いちゃったのだった。まぁ、方向はあっているみたいだから良しとしよう。

 暫くすると、銀色のドームの屋根が前方に見えてきた。



②カメラはダメ?


 入場券発売所には、案内役の女性がたっていた。外国からわざわざ来ました感を出して「ニュウジョウリョウ、イクラデスカ」と話しかけたら、「1000W、1000W!」と言いながら僕の財布を覗いて、これこれと1000W札を指さしてくれた。場内入り口には、公団の職員、というより契約のアルバイトだろうか、20代後半くらいの若い男女が制服姿で立っていた。
 そこで、僕が首からぶら下げていたコンデジカメラを見とがめられた。

 「カメラは???ですよ。」と指差して何か仰るお姉さん。自分の韓国語力、難しい話でなければ8割くらいは聞き取れるが、細かいところはよく分からない部分が残るという程度。(カシコイ中学生の英語力くらいではないかな…。)「カメラ、ダメ、デスカ?」と聞き返したら、「ダメではないが???、で、お客さんの顔、???競技場の中???なんです」との返事だった。聞き取れた部分から、たぶん、客の顔を映すな、競技場の中で写真を撮るなということだろうと解釈し、「ワカリマシタ、ワカリマシタ」とぺこぺこと日本人丸出しに頭を下げてその場を通過した。

 以前読んだブログで、釜山の競輪場に行って写真を撮っていたら後でデータ確認までされて消された、なんて話もあった。結局、写真撮っても大丈夫なのかどうか、よく分からなかったのだが、目立たないようにするのが無難そうだな、ということで控えめにしておこうと心に決めたのだった。
前日通りがかった時の写真。ソウル中心部のビル。大統領の指示?で、太極旗がデーンと…

 この日は、日曜日。しかも、3月1日で旗日でもある。日本帝国に対する3・1独立運動を記念する、いわば愛国心を再確認するそういう日であった。前に来た時より、町中に国旗が目立っていたのは、この日に向けての準備だったのだ。(国旗掲揚の称揚は、パククネ大統領の直々の指示らしい、というのは先のJさんほか韓国の知人たちの話。映画『国際市場』を見て、旗がはためいているのに感激したパククネが指示したのだ、というのだが、その真偽はともかく、どの国の指導者もほんとくだらないことを考えるね。)

 とにかく、そんな大切な日に競輪場に来るような人たちがいるのかしらん、ということなのだが、来てみると結構な賑わいだった。日本だったら、休日のGⅠ競輪くらいの入りではないかな。(後に書くつもりだが、この日は午前中、ソウル競馬場にチラッと立ち寄った。こちらの人気は、競輪だったらグランプリクラスだった。日本の中央競馬並に入っていた。競馬と競輪の人気差も、日韓でだいたい同じようなものか。)まぁ、一般国民にとっては、3・1も単なる普通の春の休日ということなのだろう。街の雰囲気も、普通の長閑な日曜日という感じだった。(韓国では、学校が3月始まりなので、旧正月を含んだ春休みが終わってしまう、ちょっと憂鬱な最後の休日という意味もあるよう。)
会場が広いので空いている席は多いが、日本に比べたら結構入っていたと思う。
バック、ホームの部分には、無料席にもテーブルがついている。

 入口で出走表をもらう。



③週末開催の韓国競輪


 韓国の競輪は、原則的に金・土・日の三日開催になっている。レースランクは、優秀・選抜・特選の3クラス。それぞれ、B、A、S級の選手が走る。この日は最終の日曜で、全14レース行われる中の3つは各クラスの決勝戦になっている。第1レースは、13:16出走で、最終の第14レースは、18:40出走。メインである特選の決勝は、最終ひとつ前の第13レースにおかれている。ここだけ、競馬方式を採用しているのね。このメインレースには、1月に京王閣で行われた第三回日韓競輪に参加した選手の名前が並んでいた。あの時、慣れないレースで多くの選手が落車したが、今回の開催がその時の怪我あけ最初のレースだった選手も何人かいた。


ドーム上部に巨大ポスター
「誰が頂上へ登るか」みたいな感じか

 88年、ソウルオリンピックの後、自転車競技が行われた蚕室の競技場を活用すべく、日本の競輪をモデルに始まったのが、韓国競輪だ。車番の色やレーサータイツ、特選、選抜などの「専門用語」などは、そのまま日本のものを流用している。最初は、交流の中でうまれたのが、実際に交流戦などを実施するまでには、20年以上も時間がかかってしまったようだ。
 出走表の見方などは、「日本語パンフレット」を見れば、一応わかる。案内所に行って「日本語、ジャパニーズ、パンフレット」とかいえば出してくれると思う。


 ルールから、マークシートの書き方まで、分かりやすく説明されてある。しかし、正直、ハングルが全く読めないと、実際に遊ぶのは難しい気もする。出走表も、電光掲示板に掲げられるオッズ一覧も、投票用のマークシートも、日本の競輪ファンなら何となく対応するものが想像できるとは思うが、細かな所できっとつまづくと思う。
大きなビジョンにうつる出走表と三連複のオッズ
 日本でも、小倉競輪などは、韓国語などの対応サイト作っていて、観光客を呼び込もうとしていて、それ自体は大賛成だけど、外国語パンフレットとサイトだけでは、やはり初心者の外国人にはハードルが高すぎるだろう。本気で外国人誘致をするなら、言葉ができる予想屋、コーチ屋みたいな担当者を雇うしかないように思う。予想の仕方、実際の買い方など、一通りやって見せて、質問にも答えて、というアドバイスをするような。難しいだろうけど、開かぬカジノの皮算用するよりは、現実的だと思うのだけど。(カジノだって外国人客を、特に中国人客を当て込んでいるのだろうから、こういうアドバイザーは準備するつもりなんだろうし。)


「確定」2-7-3 レースリプレイも

④出走表分析

 話を戻して。
 出走表の日本にはない項目にタイム欄があった。平均あがりタイムなど、過去のレースのタイムは日本の出走表に載っているが、韓国の場合は、前検日の木曜に、200メートルの独走タイムを毎回計るようだ。


 たとえば、この11レース(優秀=A級、決勝競走、5周回先頭固定1691m)の1番、ユン・ミンウ(윤민우)選手の場合、色(색상)は白(백)、競輪学校の期数(기수)は20期、年齢(나이)は25歳、ギア倍数(기어배수)3.92、200mの記録(기록)11秒15、 訓練地(훈련지)は、チャンウォン(昌原)、勝率(승률)75%、連対率(연대율)100%、3連対率(삼연대율)100%、連対数/出走回数(입강/출전회수)は19/37、連対時きまり手(입상전법)は、先行(선행)1回、まくり(젖히기)5回、追い込み(추입)9回、マーク(마크)4回、現在(현재)のクラスはA1、以前(이전)はS3、平均得点(평균득점)は、ここ光明(광명)では94.10、総合(종합)で96.60、最近3回の成績順位が(최근3회 성적순위)566人中73位、ということらしい。

 日本でいえば自在型というところか。連対率100パーって何で?と思ったら、この数字は、一月以降の数字らしく、戦歴をみると昨年までS級で走っていたが、今年からA級に陥落したが以降ずっと二着以上をキープして格の違いを見せつけている、ということのようだ。連対数/出走回数は、半年の数字のよう。それで、ズレがあるのだ。得点が競輪場毎に違ってつけられているようだが、どうなっているのかは要調査。
 
 韓国競輪の日本のそれとの一番の違いは、ライン戦ではないということだ。それぞれの得意な走法、地区や成績にもとづいて、ラインを組んで緩やかな団体戦を行う、という他の「個人競技」にはない駆け引きが競輪の魅力の一つだが、端的にそのような戦い方は禁じられている。日本のライン戦は、横の動きによる、ある程度の走行妨害が可能だからこそ成り立つ側面があるのだが、韓国競輪では禁止されている。日本では9人(A級チャレンジレースという一番下のクラスだけ7人)で走るが、韓国は7人。要するに、自転車競技のケイリンに近いルールを採用しているのだ。


⑤見慣れた国際ルール


 前回来た4年前時点では、そんなレースを見ること自体、あまり馴染がなく、それで賭けて楽しいのかしらんなんて思っていたが、今回はちょっと違う。日本でも、ガールズケイリンが復活し、ケイリンルールに準じた競走の「賭け」を楽しむようになったからだ。横の動きが禁じられていたり、事前インタビュー(日本の男子競輪なら重要な予想材料になる)がなくても、駆け引きを読んだりすることは十分に可能なのだ。(どっちが面白いかはまた別だが。)

 決まり手の数や、競走得点、連対率などを見ると、勝てそうな選手は絞れてくる。賭け式は、3連単とワイド以外はだいたいあるようで、2連単と3連複が中心のよう。日本ではなくなった単勝も、複勝(2着まで)もあり、配当は相当低いが、それなりに売られている。レース結果をみると、1着は固めで決まっているようだった。

 というわけで、出走表と、オッズを見ていれば、予想は可能なのだが、選手の知識が全くないと単なる当てモノになってしまって面白くない。ラインがないとはいえ、やはり人間同士が走る競輪。予想する上で、読み込むべき人間情報は必ずあるはずだ。ガールズケイリンを見るとき、出走表だけで十分だが、それはこれまでレースを見てきて選手の性質や、いわばそれぞれの物語を知っているからだ。全く何の知識もなく、出走表の数字の羅列を見ていたら、ルーレットと変わらない。
 そこで頼りになるのが専門紙だ。客は大体専門紙を手にしているようだ。


専門紙を広げて検討するファンたち。


⑥博士か勝負師か 


 先にパンフレットをもらった案内所で、専門紙の発売所をきく。専門紙をどう韓国語で言えばいいかわからず、結構とまどった。日本語パンフを出そうとしてきたのを「ソレハ、サッキ、モラッタヨ」と止めたりというやり取りの果て、隣のおっさんが持っていたやつを指さして、コレコレ「ウッテル、バショ、ドコデスカ?」でようやく通じた。北正面口近くに、まとめておいてあるスタンドがあるらしい。入場口の前にも、一軒スタンドがあったが、中にもあったはずだと買わずに入ったのだ。

 指定の場所に行くと、公式の専門紙発売所があった。数種類の雑誌が並んでいた。(ちゃんとチェックしていないが10種類くらいあったような…未確認。)そこのお姉さんに「ニンキ、イチバン、ドレ?」と聞くと、スタンド横に出ている、専門紙人気ランキング表を指さした。
 一位になっているのは、『競輪 勝負師』というタイトルのもの。4年前来た時も、一応専門紙を買ったが、その時選んだのは『競輪博士』だった。まわりを見渡すと、結構『博士』の占有率が高いように見えたが、公式ランキングでは『博士』は3位に甘んじていた。ここは、一位の『勝負師』を選択。


 これが、『競輪 勝負師』。1月の的中率、回収率全部1位!~的なことが確かに宣伝文句として掲げられている。

 中身は、やはり、「数字」のオンパレードなのだが、レース寸評など、文章で肉付けされた部分もたっぷりある。

 出走表をより詳しくした客観データについて、ちょっと面白かったのは、選手の未婚・既婚欄。こんなもの日本の予想紙にはもちろんない。しかし、何のための情報なのだろう…。家族規範が日本よりも強固な韓国では、その選手が、結婚しているかどうかが、予想に関係する、と思われているのだろうか。(今回韓国に行って、結婚相談所的な会社の広告がやたら目についた。日本を越える勢いで、晩婚化未婚化が進んでいる韓国社会なので、もしかしたら、こんなええ選手がまだ独身でっせ、というアピールなのかも…。)

 一番気になるのは、この「同伴入賞分析」のコーナーだ。(レースによっては「同時出走分析」となっていたりもする。)

 日本のような、ライン、「~さんの前を走ります」「~関東の3番手」とあらかじめ宣言するような「つながり」はないにしても、やはりゆるやかな何かはあるだろう。それを読むことが、勝負のポイントになる、という理解が韓国にもある証拠だろう。かつての日本の競輪も、70年代くらいまでは、事前のインタビューなどほとんどなかったわけで、予想情報は同じようなものだったはずだ。
 
 たとえば、このレースの「同伴入賞(つまり、ラインで一、二着)分析」にはこんなことが書いてあった。

「金曜の競走で、誘導員が退避する直前、パク・ミノがユン・ミヌの前に位置取り、ついて乗っていき、パク・ミノが捲りを放ち2着、これを追走したユン・ミヌが1着になる、同伴入賞をした。今日は、決勝戦であり2選手が妥協する保障はない。特に、インチョン/ケヤンチームが挟み撃ちに乗り出すと、ユン・ミヌは、同期生たちを糾合し、これに立ち向かい、どうしても真向勝負の可能性がより高いと見なければならないだろう。まず、早期昇級が目の前であるユン・ミヌが、続けて二日威力的自力勝負を見せてくれた同期生の中の一人を活用することができれば、優勝可能性が高いように見える。後着には、ビョン・ムリム、キム・ヨンヘ、パク・ミノなど、優劣が付け難く、むしろ三連複の、1-5-3、1-5-7からの選択を勧めたい。」(誤訳あるかも)

 たしかに、ユン・ミヌは競輪学校20期で、他に二人、20期がいる。日本のような、同じ地域の練習仲間、学校の同期、あとは、韓流ファンにおなじみの同い年生まれつながり(アイドルなんかもよく“88ライン”なんて言い方をする。1988年生まれ同士でよく遊ぶとかそういう意味。)などが、潜在的なラインとみなされているらしい。 (実際のレースはこんな感じに…。)


⑦車券を買う


 これを何とか読解するのに今の自分では20分以上かかる。レース間隔は、30分程度のため、車券を買いに行こうとすると、どうしてもギリギリになってしまった。車券売場は、マークシートとお金を投入したら、おつりの代わりに「車券購入券」が出てきて、次に買う時にお金として使えたり、いろいろ日本にはないやり方があった。
車券売場。有人と自動販売機がある。日本と同じ。

 一度こんな「事件」が。
 自動券売機で締切直前にモタモタしながら車券を買おうとしていると、次に並んでいるおっさんがイライラしはじめて、後ろから乗り出してきて僕のマークシートを取り上げ、正しい場所に入れなおしてくれた。その後、確認ボタンが画面に出ているのに、「これは何だろう」とボーっとみていると、僕を押しのけ「エーッシ!(“えーぃクソ!”という韓国のおっさんが良く使う腹立った時の表現)」と言いながら、「はよせぇや!!」と言わんばかりに画面をペチペチと押して買ってくれたのだが、その直後に締切になり、おっさんは買えなかったのだ。

 うー、これはおっさんに怒られるな、と身構えたけど、おっさんは、天に向かってもう一度「エーッシ!!」と叫んで頭をかかえただけでどっかに行ってしまった。どんくさい奴の列に並んでしまった、己の運の悪さを思い切り嘆くようにして。
 すみません、初心者で。せめて、的中していないことを祈りたい。


左右が車券。真ん中は、おつりとして出てきた6000ウォン分の車券購入券。もちろん、手続すれば現金に戻せるよう。



⑧写真撮影許可証


 入口で、写真に注意を受けた(らしい)以上、目立たぬように、と思いながらも、せっかく4年ぶりにきたのに、やっぱ撮りたいなと、こそこそやっていると、制服着た兄さんにチェックされた。これは、データ見られて消さなアカンパターンか、と思ったが、なにやらいろいろ説明している。

 どうやら、写真撮りたかったら、事務所行って手続してくれということらしい。事務所はアッチだ、というのでついていった。「遠くてすみませんね」と腰の低い、感じのいい兄さんだった。適当な韓国語で愛想よく喋っていると、「韓国語上手ですね」とかおべんちゃら言ってくれる。これは曲者で、あんまりできると思われると、徐々に難しい会話が返ってくるので、理解度が50パーセント以下になってしまったりするのだ。事務所みたいなところに行くと、いかにも団体職員らしい、仕事してなさそうだけど地位だけは高そうなおっさんが新聞読んでいた。身代わりとして外国人登録証みたいなものを出せということらしいが、なければ、クレジットカードでもいいか、ということになった。VISAのついたマイ楽天カードを大丈夫だろうとあずけて、「PHOTO」というクビ札を貸してもらった。
貸してもらった写真許可証


「動画はダメ。フラッシュはダメ。分かりました?」「ワカリマシタ!」ということで、以後堂々と写真を撮ってもいいことになった。(こういう対応は、自分の知る限りでは、伊勢崎オートだけがそうだった。一筆入れて、写真腕章を出してくれた。)

 事務所のオッサンは、日本人が来たということで「前、ここに中野浩一が来たよ。有名でしょう。中野浩一!」と、自慢気に話していた。日韓戦の前に視察に行ったとニュースになっていたから、そのことだろう。「ユーメイデス!ニホンジン、ミンナシッテマス!」と答えておいた。カツラのコマーシャルで特に有名なんですよ、とか、しょうもないことを言おうとしたが、カツラの韓国語がとっさに出てこなかったのでやめにした。

 メインレースは、パク・ヨンボム選手が一番人気だった。京王閣の日韓戦で韓国チームのエースだったのだが、初日、慣れないレースで無念の落車(志村選手と絡んだのだったか)をしてしまい、次の日は根性で出走したが最終日は欠場という散々な結果だった選手だ。

 今回は、どうやら、欠場明け最初の開催だったらしく、二日間1着で勝ち上がり、この日の決勝も人気に応えて優勝していた。万全の状態で、日本選手と戦う所をまた見たい。
「金網」前から出走直前の選手の様子。これはメインレース。

⑨帰りはシャトルバス



 観客の雰囲気は、日本の競輪場とまぁ大体似たようなものだろう。室内の綺麗な競技場であることや、場内も完全に禁煙だったり、日本よりは上品かもしれない。平均年齢も日本よりは10歳くらいは低い気がする。家族連れの姿もよく目にした。体育振興公団がやっているというタテマエで、家族で遊べるような工夫がされているのだ。
卓球場があり、家族で興じる姿も
ローラー体験コーナー。ピストやロードレーサーに乗ることができる。
これは、やってみたかったが、気が付いたらサービス終わっていた。
自転車アート?が展示されていたり、結構小ざっぱりとした場内。

子ども用バンク。アトラクション。
 レース中、ヒートアップした客が発する叫びは、いわゆる教科書に載っていない韓国語だった。日本の競輪より、選手の作戦が、レースになって初めてわかるというのもあり、「ボケ、何しとるんじゃ、そこいくな、アホ」(たぶん)的なことを叫んでいるのだとおもう。罵詈雑言の類は有名な言葉以外、まだ「勉強」していないので、上級まで進むと、もっと下品さを実感できるようになるかもしれない。
 
日本に比べて、警備員が若い。金網前の席。
 帰りは、地下鉄駅(最寄の光明サゴリ駅ではなく、ちょっと大きな駅まで)行のバスが無料で利用できる。2本出ていて、どっちのバスにのればいいか迷っていると、運転手さんが降りてきて、自分のスマホを取り出し「どこまで行くんだ?」と聞いて、乗り換え案内で調べてくれた。アレ乗れ、と指差したバスに乗り込んでしばらく待つ。20人乗り位のミニバスで、デーリン駅行きらしい。

 次々に客が乗り込んできた。バス乗り場の横には駐車場があり、競走用の自転車を押してあるく人の姿が見えた。隣のおっさんが「あれは選手だ。今から帰るんだな。あいつら。」みたいなことを話し始めた。「ア、選手ナンデスネ」と日本人丸出しの発音で応じたのに、おっさんは、こっちが碌に韓国語分かってないなんてどうでもいい様子でいろいろ喋っていた。選手たちの中には、南の昌原とか釜山とかから来ていて、今からKTXで帰る人もいるのだ、前は、どこでどこ行く選手を見たことがある、とか、たぶんそんな話。
シャトルバスの出発を待つ。20分くらい乗ることになった。前方には車載テレビ。
お笑い番組がやっていて、隣に座ったお姉さんが、芸人のリアクションにゲラゲラ笑っていた。


 このバス、実は4年前にも一人で乗ったのだ。あの時、連れてきてくれたJさんは、ビッグバンのコンサートに行くからと2、3レース見た後、おいてけぼりにされたのだった。体育振興公団の先輩に会う目的は、アリーナコンサートの手に入りにくいチケットを回してもらうためでもあったらしい。「まぁ、一人でも大丈夫でしょ」と言われて残されたのだが、あの時は、本当にビクビクしていた。ちょっと韓国語習い始めてはいたけど、会話なんて全くできなかったし。とにかく、英語案内とかは、地下鉄や観光地以外ほとんどない。(それだけ、ドキドキして面白かったのは確かだが。)まぁ、その時にくらべたら、進歩したな、と喜びつつ、競輪場を後にしたのであった。

 車券は、10000ウォンぐらい購入したが、すべて外れました。1000円くらい、いや、円安だから、1200円くらいか…どちらかというと、円安政策に「エーッシ!」と叫びたい気分でした。

(おしまい)

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