2021年1月9日土曜日

業務用車両としてのUberのロードバイク

  


 戦後、競輪が誕生した初期には実用車によるレースも行われていた。新聞や牛乳の配達など、運搬の仕事に使われていたタイプの自転車での競走で、競走用の自転車よりそっちのレースが得意な選手もいたそう。スポーツとしての迫力は、当然、競走用の方があるから、しばらくしたら廃止となった。


 自転車競走には、形式的には、自動車レースと同じような、乗り物の性能競走という側面があり、実用車レースもその名残りだった。競馬も、乗り物としての馬の性能向上のための競走という側面があった。今は、競馬のための競馬として成立しているが。


 某所の授業で、競輪の歴史を語る場面がちょっとあり、その時、昔の実用車レースの話をしようとして、UberEATSのことが頭をよぎった。


 街で、Uberの自転車を見かける機会がとても増えた。ポツポツ目に付くようになったのは、一昨年くらいからだと思うが、コロナになって、もはや当たり前の存在になったようだ。


 昨年末、御堂筋を歩いて帰った時、途中でUberの事務所を淀屋橋のあたりで見かけた。「パートナーセンター」と書かれていた。あそこでは、配達員のことを「パートナー」と呼ぶのか。欺瞞だな。スーパーのバイトなどでも、そういう言い方を耳にしたこともあったけど、労働者・アルバイトとは呼ばず、まるで対等な仲間ででもあるように呼んで、実際は安い労働者として使うんだから、嫌らしいな、と思わずにいられなかった。


 今日も、松屋のテイクアウトを買いに出かけたら、Uberの人が、例のボックスに受け取った牛めしをしまい込んでいた。寒い中、大変な仕事だ。松屋のテイクアウトを、配送料を払ってまで注文するのはどんな人なんだろう、そして、この「パートナー」さんは、これでどれくらい収入があるのだろう、とちらっと想像しながら。


 Uberの人が乗っている自転車は、カッコいいロードバイクであることも多い。趣味としてロードバイクに乗る人も増え、そういう人に「趣味と実益を兼ねてやりませんか」と誘い、雇用調整の効く使いやすい労働者を集めるという戦略だ。自転車に乗るのが好きで、それに小遣いまで稼げたらありがたい、と思って乗っている人も、中にはいるのかもしれない。でも、これだけ多くの人が働いているのを見ると、生活のために仕方なく、というのが大半だろう。


 実用の乗り物として普及した自転車は、スポーツ・レジャーのための乗り物として発展をとげ、独自の文化を作っていった。その「遊び」道具が、再び「実用車」として活用される時代がやってきた。


 趣味でバイト代も稼げるんだから、一石二鳥でいいじゃないの?確かに、そうなのかもしれない。でもしかし…


 軽快に飛ばすUberのロードバイクを見ながら、「遊び」が搾取される、不幸な時代にいることを改めて感じ、暗い気持ちになった。

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