2017年9月15日金曜日

いつもの情景(韓国旅行記1)

日本のニュースだけを見ていたら、今の朝鮮半島は、核ミサイル実験でいかにも危機的状況が迫っている、と思う人がいるのも無理はないだろう。これまでも実験はずっとやっていたし、一連のアレは、アメリカとの交渉を引きだすための何かなのは明白なのに、まるで日本が第一ターゲットであるかのように報道している。危機感をあおることは、権力者にとって好都合だ。もちろん軍事独裁国家の存在は危なくなくはないに決まっているが、これくらい危なさは、言ってみればずっと続いているものだ。今回、韓国行きの意欲が、ニュースによって折られるなんてことは全くなかったが、親を心配させるかもというのは頭をよぎった。「ちょっと韓国に」と伝えてあったのだが、関空で「ほなね」と電話をしたら、「もう行くのやめるんやろうと思ったのに」と冗談本気半分半分で母親が言っていた。「まぁせいぜい心配しててや」と笑って電話切った。

夕方関空発の飛行機だったというのもあるだろうが、乗客の9割くらいは韓国人らしかった。これまではもっと日本人が多かった。ニュースなどで聞いていた通り、日本に観光旅行に来る韓国人はどんどん増え、反対は減っているようだ。搭乗の待合所にパナソニックのテレビがおいてあって、よみうりテレビが流れていた。キムジョンウンの顔が映っている。報道の偏りと、自分と違う考え方の人間への馬鹿にした態度が不快すぎるテレビパーソナリティの何某が韓国ロケまでして、危機を煽っていた。顔を見るだけで虫唾が走るから、見る気が起こらなかったが、韓国に帰る人たちの中には気にしている様子の人もいた。こんなメディアの雰囲気なら、「韓国行ったらあぶないで」と誰かに言われて、旅行計画を取りやめたというような人も少なくないだろう。

今回、安いチケットだったが、LCCではなかったので、新聞がフリーで配られていた。韓国語の新聞をすらすらとはとてもじゃないが読めないのだけど、嬉しがってハンギョレ新聞をもらった。パククネ政権時代の問題をめぐる裁判のニュースがトップだった。インチョン国際空港に着いて、外国人入国手続きの列に並ぶと、8割くらいは中国のパスポートを持っているようだった。ミサイル配備の問題で、中国人の観光客激減というニュースがあったが、もう今は戻っているのだろうか。ああ、すっかり日本人観光客はいなくなったのか、と思ったが、両替をしにソウル市中心部のミョンドンまで行ったら、日本語(特に関西弁)が頻繁に耳に入ってきてホッとした。いや、ウソだな。どっちかというと、ホンネではちょっとがっかりしたのだ。なーんだ、あんまりかわらんな、と。自分の中に、少しは、非日常的な雰囲気を期待する気持があったのだろう。報道に煽られた日本人がすっかり来なくなった中、通常通り訪韓する冷静な「私」を嬉しがってアピールしたい欲望みたいなものがあったような。こうして書き出して見ると、本当にアホみたいな発想だ。

これまでに来た時に比べ、危機っぽい雰囲気はあったか。実際の所、全く普段通りのソウルしか感じられなかった。若者の街、ホンデに土曜の夜ちょっと立ち寄ったりしたが、ものすごい数の若者が群れ集っていて、都市文化を楽しんでいた。これまで見た時と同様、街の人々はせわしなく働いていた。これが韓国だな、という空気だった。

とはいえ「戦争の匂い」を感じる景色もなくはなかった。ひとつは、最後の日の前日に、立ち寄ったオリンピック記念公園。上空をひっきりなしに戦闘機が飛んでいた。爆撃機か輸送機かよく分からないが。とにかく、戦争で使う道具が何度も空を横切り、ここは常に戦争の準備をしている国なのだなということを、再確認させられた。もちろん、街で見かける軍服にもそれは感じるのだが、そっちはもう見慣れていたので戦闘機の方が気になった。後で韓国人の友だちに聞いたら、ここはそもそも空軍の飛行場に向かう航路にあたるらしく、いつでもこんな感じなのだという。特に、今が危機だから準備しているというわけではなさそう。沖縄ならもちろん、横田基地などの近くに住む人にとってもお馴染みの景色なのだろう。たまたま大阪には近くに基地がない(沖縄におしつけて)から、見慣れないということか。
小さくてよく分からない

そして、もう一つは、最後の日に立ち寄ったソウル駅近く。空港鉄道に乗る前に、お土産を買いに立ち寄ったが、少し時間がありソウル路という新しく出来た遊歩道を散歩してみようと歩いて行くと、何やらおどろおどろしい大音量の音楽が流れてきた。ステージにビジョンが設置され、椅子が並べられていた。どうやら、保守系団体の集会準備らしい。垂れ幕には、「北韓の核挑発弾劾」とある。「核には核を」なんて書いてあるから、核武装派の人たちなのだろう。時間がなく、どんな集会なのかは見られなかったが、前政権の支持者たちの一部などは相当な右翼(日本から韓国の政治を右・左で切り分けようとするのは適当すぎるとは思うが)らしいので、そういう団体なのだろう。すぐ横では、キリスト教の団体も小さな集会をしていて、讃美歌を歌っていた。案外、保守系でその後、「核」集会に合流するのかもしれない。でも、こういう集会は、これまでにもたぶんしょっちゅうされていたように思う。

ソウル駅前の広場で集会の準備中


空を飛びかう戦闘機。「北韓」を激しく非難する保守派の集会。軍服を着て、スマホをのぞき込む若い兄ちゃんの姿。女性を中心にした日本人観光客の姿。いつもの、といえば、いつもの韓国が今回も見られた。
新しく出来た大型の歩道から。旧ソウル駅の前で集会の準備中。


0 件のコメント:

コメントを投稿