2017年3月18日土曜日

熊本に行ってきた、の話の枠組み

前回書きかけた旅行記の続きを。なぜ熊本だったのかというと、熊本在住の元競輪選手に会う必要があるな、と考えたからだ。自分は、競輪の歴史を調べている。20年前位から断続的に取り組んできた課題だ。それがひと段落ついたかつかぬか、まだはっきりしないけれど、次の課題を、相変わらず競輪なのだけど、別の視点から見る何かをやろうとゆっくり動きはじめた。とにかく、動きが遅くてどうしようもないのだが。生活が、フリーター的な状況のため金はないが、自由になる時間は、かなりある。一番あるのが、春と夏。こういうまとまった自由のある時にこそ、こういう作業に着手しておきたい。まとまった時期には、もっとはっきりと計画をたてて、まとまった成果を作るべきなのだが、動こうと自分がしているだけで満足してしまっているところがある。それくらい、何も動けない時期が続いていたためだ。とにかく、自分の視点からは研究的な何かの一環としての旅行である。とはいえ、税金的なものはまったく使われていないので、役立つかどうかとか、無駄かどうかとか、説明責任をあまり気にしなくていいのがいい。自分内にはいろいろあるのだが、対世間的には、ものすごく自由だ。金がないから、行きつけの大学の図書館やら、できるだけ金をかけずにやってるのだが、たまに取材に行きたいなという場面がでてくる。調査とかフィールドワークとかいうとおおげさで偉そうだが、そんな感じの何か。場所に身をおかないと分からないことというのがあるのだ。

感度が鈍い身体では、おいたところで何も分からなかったりするし、そのわりに、現場に身を置いたということがうれしくなって、偉そうになってしまったりすることも多々あると思うし、自分もその程度のものだけれど、やはり行ってこそだったな、ということもあるのは事実。今回も、お話を聞くだけなら電話でもすんだかもしれないが、面識もない人にはやはりこっちの身をさらして信用してもらってという関係性が大事じゃないかと思った。まぁ、言い訳にして、熊本に行ってみたかったというのもある。一度も行ったことがなかったからだ。今回、少しだけ臨時収入的なバイトがあって、旅費を使っても、すぐに生活に影響はでないで済みそうな状況だった。もちろん、2年後以降を、さらにその先を、つまり一応の収入がハッキリしているのは一年間だけなので、それを考えたら、無駄遣いはしないに越したことは無いのだが。

まぁいい。あまりにみみっちいことばかり書いていると、人間性までみみっちくなってしまう。もうなっているだろうが、とにかく。ところで、みみっちい、というのは関西弁だろうか。セコイ、コスイ、ケチ、貧乏くさい、という意味です。貧乏ではなく、貧乏くさい。貧乏は仕方ないが、「臭さ」はなんとかしたいと思う今日この頃。話を戻すと、それで熊本まで出かけた訳である。競輪場を運営する市の職員に間に入ってもらい、アポをとってもらった。場所も競輪場をどうぞと言ってくれたので、甘える。用事はこのインタビューだけ。新幹線なら日帰りでも可能らしい。今では新大阪から直行で行けるのだから、なんともすごい。金があればそれですむが、ここはできるだけ安くしないければと工夫したのは、先に記したとおり。せこく行くとはいえ、自分としては、かなりな出費だし、それならば、やはり観光もつけないと「自由」の値打ちがないよな、ということで、出発前の何日かは、あれこれ、地図をみたり、時刻表を調べたり(味気ないネット検索だけど)で想像し、考え楽しんだのだった。

アポをもらったのは、午後3時で、一時間か二時間話を聞くことになりそう。「ぷらっとひかり・こだま」と博多から熊本までは在来線というルートが一万円を切り、十分、待ち合わせに間に合うのでこれにした。というのも先に書いたか。宿については、カプセルホテルを予約しておいた。ネット情報ではうまく想像できなかったが、カプセルごとに簡単な個室になっているというものらしく4000円ちょっとする。朝早い出発だし、インタビューの後、ノートの整理作業などは最低限やっておきたいし、ただのカプセルよりはいいかとここを選んだ。ドミトリー形式のバックパッカー宿にもいつかは挑戦したいと思っているのだが未だに泊まったことがない。ドヤ街の簡易宿泊所(小奇麗なやつ)のように何とか個室を保てているのなら大丈夫なのだが。経営方針に問題がありそうな、東横インやら、ネトウヨのアパホテルなんかは、自分にとっては高級すぎる。何年か前、研究費の出る共同研究に参加したときには、その辺のビジネスホテルに泊まったが、自分の身を削るとなると、ただひと晩寝るだけなのに、ちょっと高すぎると思う。まぁ、どうでもいいか。気をゆるすと、すぐに、みみっちい話になってしまっていけない。で、とりあえず一泊だけとっておいたが、近づくにつれ、いつまた行けるか分からない所に行くのに、1泊というのも寂しいかと、二泊することにして、帰りは向こうを9時頃に発つ夜行バスにした。夜行バスは、次の日使い物にならないことはわかっていたが、どうしてもしなければいけない用事もなかったのだ。3列シートのバスで10000円弱。だから、交通費は往復で2万弱だった。新幹線正規なら片道くらいの料金だ。自分の「持ち時間」が、時給1000円以上の値打ちのある人は、新幹線なり、飛行機を使うべきだろう。結局、夜行バスに乗る前に、時間つぶしと気分まぎらしに飲み屋でムダ金使ってしまったりもしたので、そんなことなら新幹線で帰った方がよかったかも。

なかなか、中身の話に入れない。「ガワ」の話ばかりしてしまう。熊本に知り合いは、と考えた時、任期付きの職場にいた頃に知り合った元大学院生のTさんが学芸員として働いていることを思い出す。去年、久しぶりにちょっと挨拶をする機会があった時「熊本に遊びに来てください」と社交辞令を言ってくれていたのを真に受けて、行くことを伝えると、飲みに付き合ってくれると返事をもらったのだった。ということで、二日目の夜の予定は嬉しい形で埋まった。熊本初めてなんだけど、市内でどこが見るべきところですかね、とその方に聞き、「文学歴史資料館なんてのも悪くないですよ」と教えてもらい、二日目の昼間は、熊本市内の主要ヵ所と、そのあたりをまわることにした。で、三日目はどうするか。熊本はJRの駅は郊外にあり、市内の繁華街は、市電で20分くらい離れたところにある。地震で被害を受けた様子が生々しい熊本城がすぐ近くにそびえる中心地には、バスターミナルがある。二日目の昼間、そこで「日帰りツアー」のパンフレットをもらってきた。三日目は、熊本から日帰りで行ける範囲の遠出をするのはどうか、と考えたのだった。

最初に考えていたのは、鹿児島に行ってみるというのだった。鹿児島も行ったことがない場所なのだ。計画の当初は、二日目は鹿児島に移動して、帰りは飛行機にしようか、とか、志布志まで出て、フェリーで帰ろうかとかも考えた。しかし、熊本・鹿児島間はかなりの距離があり、いろいろ余計な出費がかかりそうだとわかり断念した。地図や、旅行ガイド的には、普通は阿蘇だが、去年の地震、噴火のため鉄道は通行止めになっていたりする。観光できないことはないそうだが、自動車がないと不便だろうとの話だった。こういう時には、レンタカーを借りたらいいのだろうな、と思う。数年前、一念発起してとった免許は、予想どうり、ただのペーパーと化してしまっている。しかし、どこかで、挑戦をしてみるべきなのだろうが、まぁ、今は無理そうだ。40代半ばになって自動車免許をとった経緯については、またそのうち書いておきたいと思う。

また、余計な話になった。他の候補地は、天草と島原だった。船に乗りたいという欲望があったからだ。新幹線であっさり行って帰ってくるのが嫌だったのは、お金がかかる以上に、何となく味気ない、という思いもあった。旅行自体がめったにできない娯楽なため、できれば、もう少し旅情的な何かを味わいたかった。本当は、ここ2年間、毎年春休み中に韓国に行っていたので、行きたいと思っていたのだが、かなわず断念した。飛行場という独特の空間、国境線を越えるあの感じ。いい歳をして、その味を覚えたばかりなのだ。新幹線ももちろん、在来線の新快速なんかよりは相当な非日常だが、飛行機のそれに比べればだいぶあっさりしている。時間だけで言えば、韓国・大阪便なんかに比べて、ずっと長時間乗るのだけど。何年か前、フェリーで釜山に行った時は楽しかった。国内でも、門司から大阪までフェリーで帰ったこともあったが、今回は、熊本往復の行程にフェリーを無理に組み込もうとしても、どう考えても無駄が多いようだったのだ。帰りの夜行バスは、つまり、長距離旅行気分を味わうために、しんどい思いをちょっとしたいというのもあっての選択だったのだ。

三日目何するかという話だった。そんなわけで、三日目の選択肢として、フェリーで熊本から対岸にわたって帰ってくるというのは魅力的に映った。日帰りツアーのパンフレットを見ると、天草までバスで行き、野生のイルカを見るというものがあった。バスと船代込みで六〇〇〇円くらい。天草でイルカが見られるなんて知らなかった。出費だが、こんな機会、もうないかもしれない。家族連れやカップルで参加しているはずのツアー客の中で、ひとりボートに乗りこんでいる、おっさんの自分の姿を思い描いてみた。イルカとの記念写真なんかをアップしたら、自分のフェイスブックも、まるで楽しい人のそれのようになるかもしれないな、とか。野生のイルカに喜ぶ「私」のイメージに喜んだ私だったが、電話したら満席だった。イルカの夢は、はかなく消えた。Tさんに聞くと、天草は見どころが拡散していて自動車でないとしんどいのでは、島原は集中しているから見やすいかもという話だった。「他に、人吉もおすすめですよ」という言葉も頭に入れつつ、今回は、とりあえず島原に行ってみることにしたのだった。

というわけで、初日は、競輪場でインタビュー、次の日は熊本市内見物と現地で働くTさんと交流、最終日は島原へ、という旅行になった。どこで何見て、どうなって、という中身の話をしようと書きはじめたが、結局、またしても枠組みの話で終わってしまった。あったことを書く、というのは難しいものです。続く。

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