2017年8月19日土曜日

大学ノートを持って行った青春の旅

 ひとつ前の記事は、東海道線の車中で書いたものが原型になっている。「青春」18きっぷを使って、福島県のいわき市まで競輪を見に行ってきた。オールスターという大きなレースが開催されていて、折角の休みだし、こんな機会でもなければ行くこともなかなかないだろうと向かったのだった。ここは改装されてバンクの中からレースが見られる珍しい競輪場で一度行ってみたいと思っていた。福島県もほとんどいったことがない、というのもあり。なぜ競輪なのか。好きだから、なのだが、それ以外にも理由がありそれについてはそのうち書きたい。
 私の住む大阪から福島県いわきに行く。普通は新幹線、飛行機ということになるだろう。が、先立つものがない。というか生活費を削るしかない。できるだけ負担を軽くしたい。夏の間に、他にもう一回遠出をする計画もある。ということで、何年ぶりかで18きっぷを使うことにした。18きっぷの説明は、省く。最初に使ったのはいつだろう。たぶん、高校生の時だと思うが、詳しいことはすっかり忘れている。今は、ムーンライトながら、という名前になったが、その頃は、まだ大垣夜行と呼ばれていた旧急行用車両の夜行列車があり、大垣発、東京駅に5時40分に着く、というのに乗ったことが(おそらく複数回)ある。早朝すぎて、街が動き出すまで時間をつぶすのが大変だった、ような記憶がある。テレビで見たどこかに行きたくて、新宿のスタジオアルタに向かい、その近くのマクドナルドで時間をつぶしたように思うが、それが最初の時なのか、大学生になってからかは、すっかり忘れている。印象深い思い出のはずなのに、本当に、若い時の記憶が、最近では断片しか残っていないのだ。新宿で桂花ラーメンを初めて食べたのはいつだったか。いろいろ断片が出てくるが、とりあえず、話を戻す。
 18きっぷは、バラで使えなくなったため、使い勝手は悪くなったが、余りは売ったりもできる。額面で割ったら一回分2360円。それで一日行けるところまでは行けるのだ。時刻表を見るに、大阪からいわきまで14時間くらい乗れば、一日で行けると分かった。最近では、ジョルダンの18きっぷ検索という便利なものがあり、時刻表をわざわざ読まなくても済む。本当は、今回、小さい時刻表を買おうと思ってはいた。まだガラケーを使っているので、紙で必要なのだ。だが、荷物にもなるし、結局、パソコンでジョルダンの情報をプリントして持って行った。
 とにかく、これでいければ、往復5000円以内で福島なんて遥か遠い所まで行って帰ってこれるのだ。旅費のネックは当然、宿泊費だ。それも検索したら、カプセルホテルもあり、他にも安い魅力的な旅館みたいのもあるようだし、ここはひとつ、行ってやろうということになった。
 と言いながら「行く」と決めてから、すぐに心配に襲われた。途中でしんどくなってしまうのでは、というのを夢にまで見たのだ。夜行バスの方が、楽かもしれないとかいろいろ迷った。しかし、時期がお盆のど真ん中ということもあり、ぐずぐずしていたら、格安の選択肢はなくなった。
 最後に、18きっぷで遠出をしたのは、7、8年は前だと思う。東京に行って、帰りだけ普通列車で帰ってきたのだ。同居人との二人旅だった。これも細かいことは忘れたのだが、もう、体力的にしんどいな、と感じたのだった。それよりもっと以前に、もう無理、というのは感じていた。東京・大阪は9時間くらい。それで十分しんどい上に、いわき市には東京からさらに4時間もかかる。無謀すぎるのじゃないか。大丈夫なのか。後悔するんじゃないか。何のために行くのだ。行かんでもいいがな。でも、折角の機会だしな。云々。
 決断力がなく、ギリギリに決める、ということに決めた。前の日には、一応、行くつもりにはなってきていた。宿はとっていなかった。これも、決めてしまうと行かないといけなくなるし、そうなると、行きたくなくなるんじゃないかと心配になったからだ。それと、しんどかったら、東京であきらめて、一泊しよう。そして次の朝、いわきに向かおう。ということも考えていた。前の日は、先の記事に書いたように、奈良で飲み会に参加した。楽しい場に呼ばれる機会が年に数回しかないから、誘われたら、さみしくてとても断れないということもあり。さすがに、早めに切り上げさせてもらって、帰宅して、これなら明日行けそうだ、とようやく決断したのだった。
 荷物はできるだけ減らしたかった。普通列車の旅に、コロコロなスーツケースは不適だ。リュック一つにまとめた。ただ、途中の退屈にどう対処するか、というのは大問題だった。まずは、本を読もう、と決めた。本は好きだが、集中力がなく、気分で読みたい本が変ってしまうので何冊かは保険で持って行きたい。が、荷物は減らしたい。文庫・新書で4冊以内が妥当だろう、といろいろ検討のすえ決めて、選抜する。読み終わると邪魔になるから、読みかけでもまだ入り口あたりの本。軽めのものと、ちょっとは頭を使うものと、この機会にじっくり読みたいもの、というようなチョイス。キンドルとか、そういうものがあれば、あるいはスマホでもあれば、もっと荷物を減らせるのだなと思った。そんなもの持っている人間は、わざわざ14時間も普通列車は乗らないだろうけど。あとは頭を使いたく無くなった時の「音」。愛聴しているバナナマンのラジオ「バナナムーンGOLD」の最近聞いてなかった分の録音何本か。Youtubeから古今亭志ん朝の落語もダウンロードして入れて行った。これらは助けになった。
 そして、もう一つ、退屈まぎらせに持って行ったのが、大学ノート一冊だった。頭に浮かんだことや、その場で感じた何かをどんどん書きなぐっていこう、ということにした。50円もしない安いものだし落書き帳のような使い方でいいだろうと思った。トラベラーズノートとか、そんな高いものは要らない。これまでも、コクヨの「野帳」(フィールドワークする人に愛用者の多い)を持って行ったりしていたが、もっともっと気楽に落書き出来る方がいい気がした。バカな話だが「城崎にて」を書いてやろう、みたいな気持ちにもなっていた。いい大人が、何時間も無駄にするのだ。埋め合わせに何か生み出すべきじゃないか。「身辺雑記」でいいから。そんなこと考えなくとも、いつもどこかに出かけると、このブログくらいは気力のある時にちょっと書こうと思っているのだが、これまでの例では、書きたい気が持続している間は、体力的に疲れていて書く気にならないし、しばらく経って回復したら、その頃にはもう書いても仕方がないと思うようになる。そのうちに、と思っている間に、記憶自体消えていってしまい、デジカメ写真をきっかけにちょっとした思い出が残るくらいになるのは目に見えている。ならば、いっそのこと書きながら行く、というのはどうか、と考えたのだ。
 そして、実際に、往復28時間の列車の道中、いろいろノートにメモというか、なんというかを書きなぐっていたのだった。これは退屈まぎらせに実際になった。揺れる電車で、しかも、テーブルなんて気の利いたもののない普通列車で、しかもしかも、表紙の柔らかい安いノートに文字を書いていると、結構手首に負担が来る、ということも今回知った。
 今、帰ってきてしばらく経った。帰ってきたら、テキストファイルに起こして、ブログに書こうと思って書いていた自分の手書き文字を見ながら、当然ながら虚しい気分に襲われている。他にやるべきことも、一杯ある。当然。そうではあるのだけど、ここはひとつ、虚しさをおして、これまでの記事もそもそも虚しいんだから、メモを生かして旅行記というか何というか何でもいいけど、行きながら書いたものをもとに書く文というのを、書いていってみよう、と思っているところだ。

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